• 平成27年度

応力緩和層によるリフレクションクラックの抑制

株式会社 鈴木組  桝田豊広

1.はじめに

本工事 国道257号は、静岡県浜松市西区から岐阜県高山市へ至る一般国道で、浜松市内では金指街道や姫街道の愛称で知られ市民にとっては重要な生活道の一つとなっている。平成16年浜名湖花博の開催に合わせ雄踏街道(県道62号 浜松雄踏線)の全4車線化が完了し、成子交差点から国道1号までの区間の交通量が減少した。しかし、本工事区間のみ舗装修繕が長期間施工されていなかったためにクラック率40%を上回る機能的破壊の状態で供用されており舗装修繕が必要とされた。

2.工事概要

工事名
平成24年度 防災・安全交付金(国・舗装修繕)事業(国)257号舗装修繕工事
工事箇所
浜松市中区上浅田地内
工期
平成25年10月2日~平成26年1月10日
発注者
浜松市 南土木整備事務所
工事内容
施工延長452m、舗装打換え工4,330m2

3.問題点と対策

当初設計(概要)切削オーバーレイ(昼間施工)
設計期間20年 90%

特記事項には「工事着手にあたり、土質調査及び事前測量の結果を踏まえ、舗装構成及び舗装範囲について、監督員と協議すること。また、切削後、基層のひび割れ状況を監督員に報告し、対策を検討すること。」との条件明示がされていた。

<施工上の問題点>
①既設アスファルトのクラック状態が深刻であり、打ち換えても基層以下の残存クラックが影響してオーバーレイした表層にクラックが早期に発生する「リフレクションクラック」が懸念されること
②切削後にひび割れの対策・検討では、切削面での規制開放期間が長くなりクラックの状態によっては路面が悪化し、一般交通に障害が発生する可能性があること
③施工範囲内にある交差点は、歩行者・車両共に交通量が多く、本線南側に商店が建ち並ぶ地域の環境特性があること

アスファルト合材で構成されている舗装全層のクラック状況を調査した結果、6本の内すべてが基層まで、更にその内3本は明らかに瀝青安定処理層までクラックが到達していた。この結果を踏まえ、担当監督員から補修方法の提案として使用頻度の高い「クラック抑制シート」を全面に敷設し、表層の材料を密粒ギャップAs改質Ⅰ型(13)にする変更案を頂いた。施工実績の高いクラック抑制シートと同様にクラックへの追従効果が期待できるクラック貫通耐性が強い合材を用いた応力緩和層を設ける工法として、常温合材の「SAMI工法」と加熱合材の「砕石マスチック舗装(SMA)」2つの変更案を先に提案のあった「クラック抑制シート」に加え、当初設計の「切削オーバーレイ5cm」と施工性・経済性・安全性の面について4つの工法を比較検討し提案協議した。

<比較検討>
切削面全面にクラック抑制シートを施工するよりも、応力緩和層(SAMI又はSMA)を施工する工法が施工スピードと経済性において優位である。また、「応力緩和層を用いたリフレクションクラック抑制工法の評価及び解析方法」(土木学会舗装工学論文集第4巻1999年12月)によると、室内試験の結果ではあるが、「クラック抑制シート」<「SAMI」<「SMA」の順でクラック貫通耐性が強いという結果が得られている。「SMA」には実施工後の経過観察資料が無いが、クラック抑制シートと同等のリフレクションクラック抑制効果が得られると考えられた。
砕石マスチック舗装(SMA)の舗装構成について、設計条件の設定に於いて信頼性は破壊確率50%と診れば信頼度も50%となるが、クラック率40%以上の判断であれば高耐久を維持するために等値換算係数(TA)に少しでも余裕を持つことが妥当と判断し、舗装施工便覧にある「最大粒径の2.5倍以上の厚さを目安とする」ことを考慮すると、設計時の等値換算係数(TA)を下げず、経済性を踏まえSMAの応力緩和層を施工するには、SMAの最小施工厚20㎜を採用(5㎜トップのSMA合材を使用)し、表層を13㎜トップの最小施工厚40㎜を採用することである。

<対策>
応力緩和層として2cmの砕石マスチック舗装(SMA)を施工し、リフレクションクラックの抑制を図り、4cmの密粒ギャップAs改質Ⅰ型(13)を施工することにより、工法比較した他工法と比べ施工性・経済性・安全性の高い施工(切削路面解放期間の短縮と、段差の減少・応力緩和層施工後の交通解放方法の自由度向上)の実現が可能であると考察できたため、応力緩和層「砕石マスチック舗装(SMA)」の変更協議について承諾を頂いた。よって、本工事に於いて最大の問題点であった「リフレクションクラックの抑制」及び「施工中の交通規制開放期間の短縮」の処置方法が定まり問題が解決された。

<SMA合材の工夫>
冬期に於ける厚さ2cmの薄層舗装は、出来形及び品質共に維持するには困難であるため、SMAには中温化アスファルト混合物(特殊添加剤)を添加し、更に繊維質補強材(植物繊維)を加え骨材の結合を密にし、流動抵抗性及び水密性の向上を図るよう試験練りを計画し実施した。
中温化アスファルト混合物(特殊添加剤)は、常温に於いて固体的性状を示し、ある一定の温度以上になると急激に液体として作用する性質を有し、アスファルトの高温域(110~180℃付近)の粘度を低下させて施工性を確保する特殊添加剤である。又、初期転圧温度が約20℃低下した場合でも、混合物が不透水となる締固め度(97.5%以上)が確保できる。

4.効果・判定

補修工法の選択で砕石マスチック舗装(SMA)の採用に至った最大のメリットは、「応力緩和層での規制開放が可能」という点であった。残存クラックが深刻な上に舗設厚2cmでの規制開放について一抹の不安はあったが、対策検討時の考察通り最大2日間の規制開放にも十分に耐え、リフレクションクラックの発生も見受けられなかった。よって、工法選択に問題は無かったと言える。更には経過観察結果が良好であった為、同工事箇所の継続事業にて以降の設計に本工事で提案協議した舗装構成が採用され、1年5ヶ月が経過した現在もリフレクションクラックの発生は見受けられない。

5.おわりに

年末年始の抑制期間が迫る師走に、夜間施工がメインの舗装工事を無事故無災害で完工するに至った。小規模工事でスタートした施工実日数7日間の工事ではあったが、提案協議に建設的に対応頂いた発注者並びに担当監督員に心より感謝申し上げます。